2024/06/25 16:33


東京都美術館で4月27日(土)から開催、神戸市立博物館では9月14日(土)から開催される「デ・キリコ展」。

日本では約10年ぶりとなる大規模な個展として非常に注目されています。デ・キリコは形而上絵画(けいじじょうかいが)で謎に満ちた幻想的な風景や非日常的な空間を描き、20世紀美術における多様な表現のさきがけとなりました。
今回は謎に溢れたデ・キリコ作品の見どころを徹底解説します。

〜目次〜
1.デ・キリコとは?
「謎以外、何を愛せようか?」自ら発明した形而上絵画という謎多き作品
2.見どころ徹底解説
①形而上的なミューズたち
②不安を与えるミューズたち
③バラ色の塔のあるイタリア広場
④ 風景の中で水浴する女たちと赤い布
⑤ 燃えつきた太陽のある形而上的室内


1.デ・キリコとは?

ジョルジョ・デ・キリコ(1888年〜1978年)
出生地ギリシャ、国籍イタリアの少し変わった生い立ち。
「形而上絵画*(けいじじょう)」と言われるジャンルを確立し、シュルレアリスムの画家に大きな影響を与えました。
彼は「謎以外、何を愛せようか?」という意味深な言葉を残しており、その言葉通りの謎多き絵画を描いています。
形而上絵画*とは、まるで夢の中を描いたような、日常の奥にひそむ謎や神秘を表現した絵画を指します。
一見無関係なモチーフをどこかゆがんだ空間に並べることで、見る者に不安や困惑・神秘的な感情を与えます。


2.見どころ徹底解説

①《形而上的なミューズたち》 1918年 油彩・カンヴァス
「形而上(ケイジジョウ)」とは、まるで夢の中を描いたような、日常の奥に潜む謎や神秘を表現したもので、デ・キリコ絵画の中で最も有名なシリーズです。
彼は人間の顔を、「マヌカン」と呼ばれる顔のないマネキンとして描くことにより、現実離れした世界観を表現しています。
デ・キリコの絵にマヌカン(マネキン)が登場した時期は、第一次大戦の勃発と、それにともなう最初の爆撃の発生にぴったりと一致するそうです。
無力感や哀しみの感情、がらんとした空洞のような心の虚しさが伝わってきます。

②《不安を与えるミューズたち》1950年頃 油彩・カンヴァス

この《不安を与えるミューズたち》は、最初に1918年頃に描かれ、1945年〜1960年にかけて20枚程度複製していると言われています。
この絵を最初に描いたのは第一次世界大戦中の兵役時代で、手前に描かれた2人のミューズ(女神)の不自然な雰囲気が、画面全体に不安を与え、デ・キリコが抱いた戦争の不安を表現しているとも言われています。
今回の展覧会に来ている作品は1950年頃に複製された絵です。

彼は、《不安を与えるミューズたち》だけでなく、他の初期の形而上絵画のレプリカを多く制作しています。さらにその複製作品には、実際の制作年ではなく、1910年代の年号を記載していました。

なぜそんなことをしたのかはよくわかっていませんが、彼のキャリアを通して、1910年代の形而上絵画がもっとも成功しており、その後そこを超えることができなかったためだという説が上がっています。


③ 《バラ色の塔のあるイタリア広場》1934年頃 油彩・カンヴァス

皆さんは、見たことがない場所なのに何故か知っている気がする、というデジャヴ体験をしたことはありますか?
デ・キリコの形而上絵画は、いわばデジャヴの反対の体験を表現したものであると言われています。

「見慣れたはずの場所が、なぜか初めて見る景色のように感じる…」この絵は、そんなデ・キリコの原体験を描いた作品です。
不気味な長い影や不自然な遠近法が、不安や空虚さ、憂愁、謎めいた感覚を表現しています。


④《風景の中で水浴する女たちと赤い布》1945年 油彩・カンヴァス

デ・キリコはバロック期の作品に傾倒した時期があり、ルーベンスなど過去の巨匠たちの作品を研究し、西洋絵画の伝統へ回帰しました。
この時代には、ピカソやマティスなど他の有力な画家たちも、古典的な絵画手法を見直し始めていました。ピカソやマティスは古典絵画を凌駕する新しい絵をつくろうとしましたが、デ・キリコの場合は、古典絵画そのものを模写するような絵を描いていることが特徴です。


⑤《燃えつきた太陽のある形而上的室内》1971年 油彩・カンヴァス

彼は亡くなるまでの10年余りの時期に、若い頃に描いた作品を画面上で総合し、過去の作品を再解釈した新しい境地に到達しました。
この新しい絵画群は「新形而上絵画」と呼ばれています。
「新形而上絵画」には、それまでデ・キリコが描いてきたモチーフが全部集められるようなところがあります。
この作品には太陽と月がコードで繋がっているような奇妙な構図ですが、彼が過去に手がけた詩集の挿絵のモチーフが再利用されています。
晩年の作品は、彼の画業の集大成となっています。

まとめ
いかがでしたか?デ・キリコ展は東京だけではなく関西にも巡回してくるので、ぜひ本記事を参考に絵画鑑賞を楽しんでくださいね。